■東京開催 日時 : 2010年7月16日(金) 会場 : 秋葉原コンベンションホール |
■大阪開催 日時 : 2010年9月16日(木) 会場 : 大阪国際会議場 |
近年、食品業界と消費者とのコミュニケーションはより重要性を増しています。保存料をはじめとする食品添加物についても、消費者とのコミュニケーションにより正しい理解を得ていくことが求められています。しかし、適切とは言いがたい情報提供も多く見受けられます。
このような情勢下、弊社では特約店様ならびに食品メーカー様を対象に、「食品メーカーと消費者とのコミュニケーションを考える」と題したセミナーを開催させていただきました。東京と大阪との2箇所で開催し、おかげさまで東京では141名、大阪では194名の盛会となりました。
お忙しい中、多くの皆様にご参加いただきましたことを、この場を借りてお礼申し上げます。
食品安全に関する多くの素晴らしい示唆を頂いたことに感謝すると共に、ここでは、大阪会場での講演・パネルディスカッションの内容および聴講者アンケートの結果をご報告いたします。
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「なぜ、保存料は嫌われる? 〜メディアから見た保存料の光と影〜」
中野 栄子 様(日経BPコンサルティング 開発本部 編集グループ 健康・医療チーム プロデューサー)明治時代の物理学者・寺田寅彦先生は「ものを怖がらなさすぎたり怖がりすぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなか難しい」とおっしゃっています。これは今、食の問題についてずばりあてはまる言葉ではないかと思います。実際にはそこまで怖がらなくてよいのに対策にすごくお金をかけていたり、逆にもっとちゃんと怖がって対策を立てなくてはいけないのに何もしていなかったりというアンバランスなことが、食の問題については起こっているのではないかと思います。
今日のメインテーマとなっている保存料については、一般の消費者の多くは保存料が嫌いで、中には食べ続けるとがんになると信じている人もいます。そして無添加食品を求めたりしています。ところが、保存料が入った加工食品を食べて本当にがんになるということはありません。「知らない」ということに潜む危険
一方で普通の人たちは怖がっておらず、むしろ好んで食べているものが、実は危ないということがあります。それは鶏刺しやレバ刺しなどです。厚生労働省のガイドラインに沿って生食用のお肉を出荷できると畜場は全国で5箇所くらいです。実績のあるのは2箇所ほどで、馬の肉やレバーのみが生食用として出荷を許されています。つまり、カンピロバクター食中毒の原因となることの多い鶏肉で、生食できるというお墨付きのあるものはないわけです。カンピロバクター食中毒が連発して起こるのも分かります。
ではなぜ飲食店は生肉を提供するのでしょうか。それは飲食店経営者たちが今言ったような事を知らないからです。一方、お客さんが生肉を注文するからということもあります。お店もお客さんも食中毒予防の知識がないままに、新鮮であれば安全なのではないかという漠然とした思いを持っています。実際は、カンピロバクター食中毒は菌がすごく少なくても発症するので、新鮮であれば安全というのは通用しないのです。
食品添加物がカンピロバクターをやっつけるわけではありませんが、一般論として食品添加物の保存料がどういう役割を持っていて、どう貢献しているかということも彼らは知らないわけです。誤解が深まる社会構造
ある焼肉屋さんを取材したところ、パンフレットには「安全のため、食品添加物は一切使用しておりません」と書かれていました。この食品添加物は何を指しているのか聞いてみたところ、「化学調味料ですよ。食べ続けるとがんになるかもしれないんですってね」と言うのです。そのようなことはないと説明しましたが、経営的に成功しているようなお店の方でも知識がないというだけでなく相当な誤解がある、世の中がそういう誤解に満ちているということでなかなか誤解を正すことは難しいと感じました。
ある回転寿司屋さんでは「無添加」を標榜しています。そしてホームページでは、他のお店は人工保存料を使っている、多量の化学物質が体に入ろうとも、法に触れなければなんとも思わないなどという言葉を並べています。そもそも食品は化学物質でできているのですが、これは「優良誤認」を起こさせて自分たちの店の商品をたくさん売ろうという一種のマーケティングではないかと思えてしまいます。
それに対してお客さんも意を同じくしてそのお店を選ぶという構図があります。つまり、誤解に基づくとはいえお客さんからは無添加表示への要望があります。事業者側も無添加と表示すればお客さんの支持が得られます。お店はもうけることが目的ですから表示します。それで結局消費者の誤解が深まるという仕組みになってしまっているのです。
実際にどのくらい誤解しているのかということを、私どもで毎年調査しています。「食品添加物は健康を害すると思いますか」と聞くと、「そう思う」と「ややそう思う」が83.8%でした。そして、「『無添加』と書かれている食品があったら選びますか」という問いには、75%の人が「なるべく買うようにしています」と答えました。つまり、食品添加物は健康を害するという間違った知識をベースに、「無添加」と書かれた食品を求めているということが浮かび上がってくるわけです。メディア・マスコミによる間違った情報発信
このように、事業者も悪いし、それを信じてしまう消費者も悪い。しかし、メディア、マスコミにも相当な責任があります。
記者が科学的に間違ったことを報道する理由はいくつか考えられます。一般的に記者は文系出身が多く科学の知識に乏しいです。しっかり取材するのですが、記者といえども一般生活者と同じ知識レベルなので、間違って出してしまうことが避けられません。
加えて、メディアの特徴として、白か黒かはっきりさせた言い方をしがちということがあります。科学は白黒はっきりさせにくく、かなり微妙なところを表現しなければいけないのですが、それがうまくメディアに載っていないところもあります。
メディアのもう一つの特徴として、危ない情報が売れるということもあります。
取材相手の学者や専門家が原因となることもあります。学者が自分の専門外のことを意見として言った場合にも、記者が科学的にそうに違いないと信じて、科学的に間違ったことを書いてしまうということもあります。正しい判断力を身につけるにはリスクコミュニケーションが重要
ではどうしていけばよいのでしょうか。一つにはリスクコミュニケーションです。何回も回を重ねたり、場をいろいろ変えてみたり、いろいろな方面の人たちとやってみたりすることが必要と思っています。
リスコミが必要な理由は、リスク対策の費用には限りがあることです。国家予算ならば、その原資は私たちの税金です。食品添加物も怖いし、残留農薬も怖い。怖いものに対して全部対策を打っていたら、私たちの税金はいくらあっても足りません。そうすると、リスクの高いものから順番にやっていくのが公平であり、その順番について共通理解を得ながらやっていくことが必要なのだと思います。
今日のメインテーマである食品添加物の保存料についても、保存料に対して世の中がいかに誤解をしているか、ではどうしたら誤解を正せるかということを考えながら、議論を深めていければよいと思います。 -
「コミュニケーションで変わる消費意欲 〜食品リスクの経済学〜」
有路 昌彦 様(近畿大学農学部准教授)食品リスクの最大のものは食中毒で、大半は細菌性のものです。厚生労働省に報告されている事例で言うと、平成20年度は2万4303名、21年度は2万249名です。事件数では1,048件です。潜在的には23万人ぐらい感染者がいたのではないかとされています。
では、保存料の役割とはそもそもどういうものでしょうか。保存料の重要な役割は、食中毒の原因菌の繁殖を抑えることと、腐敗を抑えて日持ちを長くすることの二つです。
食中毒の原因菌の繁殖を抑えるということは、食中毒リスクを下げて、安全性を高めます。腐敗を抑えて日持ちを長くするということは、食品廃棄を減らしてエネルギーや資源、コストの節約になります。これは経済学的な面からは資源の節約、費用の削減という重要な役割になります。保存料への間違った認識は、消費者をリスクにさらす危険行為
ところが、保存料を加えることによって食品リスクが高まるという誤解があります。
保存料のリスクはゼロではありませんが、あるうちに入らないようなものです。食品として食べた場合の最大無毒性量が求められ、通常その100分の1がADI(Acceptable Daily Intake:一日摂取許容量)として設定されています。しかし、実際に使われているのはそれよりもさらに少ない量です。つまり毒ではない、影響はないという結論になります。
そういうリスクと食中毒のリスクを比較してみてどのぐらい差があるかというと、例えば保存料をはじめとする食品添加物を1とすると、食中毒のリスクはその1兆倍とか10兆倍とか100兆倍とかの差です。ですから、食品添加物が危ないという考え方は、本質的に言うとナンセンスです。保存料が危険だと騒いだり、無添加がいいなどという話をするのは、結局、消費者をごまかして何兆倍ものリスクにさらすという非常に危険な行為であるとも言えます。
ところが無添加は安全という誤解があります。その背景に何があるのでしょうか。様々な角度から情報を見ることで、正しい判断を
まずメディア関係者が危ない情報で注目を集めたいということがあります。
もう一つ、「うちの団体に入ってもらおう」というのがよくあるような気がします。健康食品何々とか、自然食品何々というものが結構あります。
もう一つ大きいのは「無添加ブランド」で商売をしようとする企業がたくさんあることです。添加物は危ないという言い方をして、自分のところのものは無添加だから買ってくださいというマーケティング手法です。
さらに、危ない情報で食べていきたい似非(えせ)学者がいます。企業が無添加ブランドを売りたいというと、この人たちは添加物は危ない、食べたら毒だと言うわけです。
それからもう一つ、似非学会というものもあります。
大事なことは、学者が書いているから、学者が言っているからそれは事実であるということではないということです。その人が言っていることが正しいかどうかを判断するには、オーソライズされているかどうかが重要です。ちゃんと研究論文として外に出していて、しかもそれが採択されていて、その学会がちゃんとした学会で、周りの人もアグリーしているかどうかです。「知らない」「分からない」から不安になる
一方で、肝心の消費者の皆さんが何も知らないということも問題です。知らないから、今のような人たちが何だかんだ言ったら、「ああ、そうなんだ」と思い込んでしまうのです。
消費者の約75%は食品添加物がどのように管理され、使用基準が定められているかを知りません。どう管理されているかを知らなければ不安になってしまいます。また、保存料が食品の日持ち向上と食中毒リスク低下のために使われているということを知っていますかと聞いてみたところ、消費者の約75%が知らないと答えています。
一方で、食品安全委員会のアンケート調査では約60%の人が食品添加物に対して安全性の視点から不安を感じています。具体的な理由はなく食品添加物に対して不安を覚えています。
では皆さんも含めてどのように対応していくのがいいのでしょうか。ベネフィット情報の提供が、消費意欲を刺激する
消費者は、自分でいいところと悪いところを比較して使うか使わないかを決めます。保存料については、リスクはほぼゼロで、ベネフィットとしては食中毒が減る、食料廃棄が減るということがあります。ここの情報を正しく得た上でちゃんと天秤にかければ、正しい行動がとれると考えられます。
実験経済学のコンジェント分析という統計学的な手法で、情報提供の効果を調べてみました。消費者の持つ無添加プレミアムが、情報を提供したことによってどれだけなくなっていくかを調べようというものです。正しい情報を与えて無添加プレミアムが下がるのであれば、リスクコミュニケーションは効果があるという話になります。
二つの情報を流しました。情報提供Aは先ほどのADIの話です。保存料はこのような形でちゃんとADIが設定されて、使用量が決められています。管理されて、その基準内で使われているものなので、基本的にリスクが出てくることはないという話です。情報提供Bは保存料を使うことによって日持ちがしますとか、食中毒のリスクを減らしますという話です。Aがリスク管理情報、Bがベネフィット情報です。
実際にやってみたところ、保存料不使用のウインナーについて、情報提供なしのときには、消費者の皆さんは61.7円プラスに答えています。この人にリスク管理情報だけ、ADIの設定だけを教えても、61.7円の無添加プレミアムが62.9円とほとんど変わりません。つまり、リスク管理情報を説明しただけでは消費者の消費意欲はほとんど変化しませんでした。
それに対して、ベネフィット情報ということで「食中毒を減らします」「保存料を適切に使用すると保存期間が延びます」という当たり前の話を加えると、1回情報を与えるだけで20円分無添加プレミアムが下がりました。
つまり、1回の情報でも消費者の消費意欲は34%も変わります。ベネフィット情報もちゃんと入れて情報提供すると、より正しい形に近づくということが明らかになりました。
最後にまとめです。保存料を中心とする食品添加物の役割は、経営学的な意味だけでなく、食品リスクの面でも非常に重要なものだと私は思います。保存料はこれだけベネフィットがある、これだけいいものだということを胸を張って堂々と言うことが非常に効果があるのです。 -
コーディネーター
伊藤 潤子 様(生活協同組合コープこうべ 参与)
パネリスト
中野 栄子 様
有路 昌彦 様
市川 まりこ 様(食のコミュニケーション円卓会議 代表)
佐仲 登 様(日本食品添加物協会 常務理事)
北山 雅也 様(弊社取締役)会場からの質問を元にディスカッションが進行されました。ディスカッションの内容は大きく次の3点でした。
リスクコミニュケーションの効果的な進め方
- コミュニケーションを何とかしたいという気持ちが、まずは取っ掛かり。人と人とが顔を見ながらコミュニケーションする輪を広げていくことが重要。
- 「分かってくれよ」という姿勢で自分の主張をすると失敗する。聞き手に回って言いたい事を言っていただいた後に、「これはこういうことなのですよ」という双方向性を心がけることが重要。
- 根拠となる情報を共有することが重要。食品安全に関して一番レベルが高い情報源は食品安全委員会なので、ここの出す情報をよりどころとすること。
- 一般の方なのか、全く反対の立場の人たちなのかといった対象によってやり方を変えないと、全部一緒くたではうまくいかない。
保存性は食品事業者にとってのベネフィットではないか
- 日持ちがして、より安くて、よりおいしくて、より安全なものが提供されることは、どのように考えても消費者にとっての便益。消費者にとって便益があるから、売上が伸びて企業にとってもよい。初めに消費者の需要ありきで、結果として供給側の企業も利益、市場を手にすることができる。
「無添加は消費者ニーズ」との食品事業者の言葉は本当か
- 消費者の不安感や知らないという弱みに企業がつけこんで、無添加を商売に利用している。消費者として怒りを感じる。
- 何らかの脅しによって消費者ニーズを作った後で、ニーズがあるという言い方をしている。それは本質的なニーズではなく、歪んだニーズであり、間違いである。
- 消費者にも色々な人がいるので、食品事業者は多様な選択に応えていくことが大事。無添加も適切にやっていただければよろしいが、そうでないものもしっかり選んでいくということ。
- 割高な無添加を買わなくてはいけないと強迫観念のように思ってやり繰りしている人たちもいる。そういう人たちをも対象にした無添加商法に対しては、企業として本当にそういう商売をしていていいのですかとお伝えしたい。
- 無添加を標榜しているコンビニの系列スーパーで防かび剤を使っているなど、食品事業者としてのポリシーはどこにあるのかと感じることがある。
左から北山氏、佐仲氏、市川氏
左から有路氏、中野氏、伊藤氏 -
食品メーカーは、保存料の利用について今後どのように取り組むべきだと思われますか。
「その他」には次のような意見がありました(抜粋)。
- 両方、消費者に選ばせるべき。
- もっと認知させるよう努力すべし。
- 消費者の意識が変われば使ってもよい。
- 使って売れるなら使いたい。
- 使ったら良いと思うが、安全であることを知らせる必要性がある。
- 保存料の役割を消費者にちゃんと説明すべきである。
- 保存料以外で日持ち可能なら使わないほうが良い。
- ケースバイケースで利用すればよい。
基調講演やパネルディスカッションへの感想やご意見
食品製造業の方からの回答(抜粋)
- キチンとした情報を消費者に伝えないことは罪である。根本的な添加物の意味をいかに正確に伝えるか、どこで誰がゆがめてしまうのか、考えさせられます。
- 会社の仕事(購買)で食品添加物の担当になって半年ですが、ハッキリ言って食品添加物に「?」の意識を持っていました。今回のセミナーでかなり意識が変わりました。有意義だったと思います。
- 一般消費者の保存料に対する認知度があまりにもないということがわかりました。
- 「無添加商法」=マーケティング手法により、社会全体が「無添加」「フリー」の動きになっている現状、一企業からの発信だけで流れを変えるのは非常に難しいと感じています。
- 添加物の安全性のアピールをメーカー責任として進めて頂きたい。
- メディアや学術的な立場からの意見が聞けて非常によかったです。毎年続けてほしいと思いました。
食材・添加物販売業の方からの回答(抜粋)
- 正しく使用すれば、食品添加物は安全、安心という事を我々売り手はもっとPRしていかなければいけないと改めて思いました。
- 優良誤認に対し我が社でも可能な限りリスクコミュニケーションを生かし食添の真実を食品製造業者へ言っていきたい。
- CVS、スーパー側の見解を持った人もパネリストに加えた方が有意義なディスカッションができると思う。
- 日本人は安全・安心を気に掛ける人種なので、それを逆手に取って「保存料入り」「〜日間日持ちします」「MOTTAINAI」などを前に出して啓蒙活動したらどうか。
- 無添加の恐ろしさをあらためて感じた。
- 日本人はメディアに弱い。ついては添加物に必要であり有益なものであるとメディアから発信してもらうのが一番の近道だと思います。
- 非常にわかり易く、為になりました。こういう機会を業者だけでなく一般消費者に対してもやられたらいいのではないでしょうか。
食品安全への正しい理解を広げていくため、今後は一般の皆様へ向けてもコミュニケーションの場を設けていきたいと考えております。これからも弊社の活動にご理解を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。